オープンマイク

Open-Mic

テロワールから生み出された音楽には命が宿る

-テロワールな生き方へのステップ-

 オープンマイクは『つながる・めぐりあう』をテーマに、ホストとゲストが “セッション”するスペースです。共に響き合う仲間、テロワールな人たちとのトークなどから、さまざまなテロワールのカタチをお届けします。
 フランス語で「土地」を意味するterreから派生した“テロワール”。ワインやコーヒー、お茶などの品種における生育地の環境(地理、地勢、気候など)から生まれる特徴のことを指します。オープンマイク第一弾は、本サイトの名前にもなっているテロワールを知るための一歩として、この概念にパッションを感じ、自らも“テロワールミュージシャン”として活動している中田雅史さんにインタビュー。テロワールリンクの立ち上げやその活動、自身が想うテロワールについて語ってもらいました。


プロフィール

Guest/中田雅史 -Nakata Masashi-

 北海道島牧村出身。島牧と銭函にて二拠点暮らし。北海道を拠点に風土を醸してゆくテロワールシンガーソングライター。雄大な自然を想起させる詩の世界観と深く温かな歌声、アコースティックギターで奏でる楽しさと優しさと懐かしさの同居する曲は、聴く人のココロとカラダを不思議と調和していく。各地での様々なスタイルで行うライブ以外にも、講演・音楽プロデュース・銭函フェスの主宰、楽曲提供・配信・TV・ラジオ・youtubeチャンネル「masashihouse」・WEB MEDIA「Terroir.link」・顔の見える暮らしの実践・地域おこしなど、多方面に活躍の場を広げている。
http://nakatamasashi.com

Interviewer/長谷川みちる-Hasegawa Michiru-

 酪農ライター、編集者。北海道苫小牧市出身。札幌市在住。ITベンチャー(人事・出版部門)、編集プロダクション、農業系大学での編集・出版部門勤務を経て、フリーランスへ。専門誌、情報誌、内報誌、フリーペーパー、書籍の企画・編集、農業関連イベントの企画・運営に携わる。得意とするフィールドは農業・漁業(特に酪農)などの一次産業、町づくりなど。現地取材に基づいたルポルタージュを強みに、全国各地を取材している。
http://chiru-bluebird.info/


人生という土壌と音楽を紡ぎ合わせるのが歌作りの根っこ

長谷川: “土地”や“風土”を表すことから食の分野で耳にすることが多いテロワールという概念ですが、中田さんのライフワークである「音楽」には、どのように結びつくのでしょうか?

中田:音楽も食べ物と同じように、その土地だからこそ生まれるものだと思っています。例えば北海道や沖縄の郷土音楽は特徴的で、音色が思い浮かびますよね。歌詞も同じだと思っていて。道内出身の松山千春さんの有名な曲の一節に「果てしない」という言葉が出てきますが、その一言だけで北海道をイメージできる素晴らしい表現だと思います。

中田さんのふるさと、島牧村の夕日。

 僕が歌を作るときに大事にしているのが、思い出や物語などを含めた原風景を入れることルーツ対してテロワールであり、物語を紡ぐことだと考えています。

長谷川:中田さんの音楽のルーツとは?

中田:僕の場合、ミュージシャンの尾崎豊さんやクラシック音楽に影響を受けてきましたし、もっと遡ると家族が弾いていた楽器の音にルーツ・原風景があります。音楽を作るときには、そこに結びつくことを常に意識しています。

長谷川:「物語を紡ぐ」というキーワードも出てきました。

中田:よく本物には「命が宿っている」と言われたりしますが、命が宿っているものには物語があると思っています。

 その物語が濃ければ濃いほど、生命力があるというか。そこに登場する人たちのバックグラウンドやストーリーに抑揚があるから良い作品になるんですよね。それって音楽はもちろんですが、映画とかアートとか、生産物(食べ物)などにも同じことが言えるんじゃないかな。

長谷川:これまで制作した音楽は、テロワールの中で生まれたということですか?

中田:例えば2010年に作った『海空』という曲にも、テロワールの概念がしっかりと組み込まれています。僕の実家は北海道にある島牧村で130年続く商店ですが、祖母から「先代から教わった良いモノ・コトを代々繋いでいくことが中田家の家訓」と言われて育ってきました。

島牧村の海からたくさんのことを学んだ。

 ですから、故郷に何かあったときには投げ出すことはしないし、故郷のために何かしたいという思いが常に自分の中にありました。この曲は、そういった脈々と受け継がれる繋がりや命を表現したんですよ。自分自身はずっと昔からテロワールという感覚の中で生きてきていて、それが歌作りや現在の活動にも繋がっていると感じています。

自分の足下を見直して、自分のあるべき姿に還る

長谷川:テロワールという概念は、以前から知っていたのですか?

中田:映画『そらのレストラン』のモデルにもなった循環農業に取り組む農業ユニット『やまの会』のメンバー(せたな町・今金町在住)に、自分の音楽のスタイルが「テロワールだよね」と言われたのがテロワールに出合った(言語化できた)きっかけです。もっと遡ると、メンバーの1人であるソガイハルミツさんに出会ったこと、そして2011年3月11日の東日本大震災がターニングポイントになりました。

 僕たちは3.11でさまざまな経験をして、たくさんの課題を突きつけられましたよね。故郷に住めなくなったり、帰れなくなってしまったり…。僕は「故郷を守る」ということを使命に感じていたので、この出来事にとてもショックを受けた直後、交通事故の後遺症の影響もあって急に声が出なくなるという辛い時期を過ごしました。そんな時に出会ったのが、ソガイさん。彼が自然栽培・不耕起栽培のトマトを送ってくれたんですが、それを食べた瞬間
「わーーーーーーーーお!!!なんだこれは!!?」
と衝撃を受けました。普段食べているものとは根本的に何かが違うと感じ、思わず本人に会いに行ったんです(笑)。

山の会のメンバーとの記念写真。

 ソガイさんの野菜づくりやテロワールの考え方については、今後のオープンマイクの中で詳しく紹介していくとして…。何が言いたかったかというと、ソガイさんの野菜が美味しい理由は「その土地が持っている原風景や歴史、風土、文化から微生物に至るまで、その土地の持つ魅力の全てを最大限に引き出しているから」ということだったんですね。

長谷川:つまり、テロワールであることは「自分の個性や才能を発揮する」ことと繋がるということでしょうか?

中田:そうですね。つまり個性や才能を発揮できているということは、生命力にあふれているということでもあると思うんです。それが、食べ物の場合は圧倒的な美味しさとして現れるし、音楽の場合は勇気を与えたり、胸が熱くなったり、涙が出たりする歌詞や音として現れるんじゃないかな。

 ソガイさんたちとの出会いや出来事を通して、自分たちがいかに本質からズレていることをたくさんしているかに気づきました。空気が豊かで食べ物があってこそ生きることができるはずなのに、そういった代替えが効かないものを失いかけてなお、それを止めようとしない人類の歩みや欲望などが日常の中にあるなぁと感じるようにもなりました。もっと身近なことに照らし合わせてみると、支払いに追われる暮らしとか、心身をすり減らす暮らし。心から楽しむことができずに「こうじゃなきゃいけない」と自分を縛って生きていたり…。

 一方で自分自身をかえりみると、音楽に対していつの間にか上ばかり目指そうと躍起になっていたところがありました。声が出なくなったことで自分の足下をもう一度見直す気づきになったし、もっと草の根の活動をしたいと思うようになりました。そうすると今まで感じていた不安や焦りがなくなり、不思議と音楽にもまっすぐ向き合えるようになったんですね。

シアターブルック佐藤タイジ氏とも語り合う仲である。

 これまでは“自由ではあった”けれど、決して豊かとは言えなかった。それが、テロワールという生き方を選んだことで関わる人たちの顔がよく見えるようになり、音楽活動も普段の暮らしも豊かになったのだと感じます例えばやまの会のメンバーたちと夕食を囲む時は、農家は自分たちが育てた食材を提供し、シェフはその土地で収穫した食材で料理をふるまい、僕は音楽を奏でる。その土地で出来ることだったり、それぞれのスキルや好きなこと・やりたいことを生かして一つのコト(晩餐)が成り立っています

共生できる場所としてのテロワールリンク

長谷川:このwebサイトを含めテロワールリンクでは、これからどんなことをしていくのでしょうか?

中田:それぞれが「気持ち良い」と思えるスタンスで取り組んで、一人一人の個性や能力が発揮できる暮らしを実現し、人と人が共生できる場所を作りたい。もっと大きなくくりで言えば、地球を含む生きとし生けるものが共生できる環境を作っていくことになると思います。

 今の世の中では食べていくための“ライスワーク”をしている人は多いと思いますが、本来その人自身が持っている輝きが発揮できているかと言えばそうではなかったり…。自分の中で本当に得意なことをして輝ける“ライフワーク”ができる場所、テロワールリンクというスペースにライフワークをする人たちが集まることで「自分たちもやってみようかな??」と思えるめぐりが生まれる場所づくりができたら素敵ですよね

長谷川:テロワールリンクが、ライフワークの選択肢を増やす参考になればいいですね。

中田:全てを突然ライフワークにシフトするのは、あまり現実的ではないと思うんです。だから自分が輝けることを、どのくらいの比重でやるのか。その方法を一つ選ぶのか、二つ選ぶのか。はたまた混ぜ合わせるのか。色々な方法があって、それを決める自由もあるはず。そのために、まずは繋がることが必要だと思っています。

 このオープンマイクでは、実際にテロワールを暮らしの中に取り入れている人たちとさまざまなスタイルでセッションをしていきます。ぜひ、その中から皆さんの選択肢を増やし、自分らしいテロワールを見つけてもらえたら嬉しいです。